2011年5月17日火曜日

しもたま柔道&闘病日記-その18-

しもたま柔道&闘病日記-その18-
先日の交流山行は、もどかしい面もあったが、交流という意味ではとても“有意義!”であった。というのも、ああ、あなたがあの、菰池さんですか?読んでます!と、他の部の方から声をかけていただき、とてもうれしかったからだ。会報のペンネーム「しもたまき」の由来から柔道を始めたきっかけまで、再び、ご質問を受けた。というわけで、シリーズ途中から読んで下さっている方のために、ここでおさらいタイム。
まずは「どうして“しもたま”なの?」から。これは入会当時、沢部には「元祖たま(吉田珠代氏)」ばかりではなく、上の苗字が「玉置(たまき)」の玉置淳子氏、そしてわたくし下の名前が「環(たまき)」の菰池 環と、合計3つの「たま」が存在していた。たまさん、と呼ばれても、たまきさんと呼ばれても、私が返事してしまい、とてもややこしいため、2人のたまきは、かみたまき、しもたまきと、暫定的に区別していたのだ。
さらに、「柔道をなぜ、今ごろ(31歳に始め、2004年現在33歳)?」というご質問へのお答え。有限会社の収穫作業中に、「(サッカー歴のため下半身がごつくて)重心が下にあるから、柔道にむいているかも?」とつぶやいたのがきっかけだった。その時は、かる~い気持ちで始めていて、まさかここまで、はまるとは思わなかった。

30代になって柔道を始めるのは珍しいかもしれない、が、20代前半なら、時々あるそうだ。最近、道場に似たような大人の仲間(ライバル)が増えた。カナダ人の英語教師(ALT)、ドーン・ストルバーグさんだ。彼女の出世スピードは速い。去年12月の2級昇級試験では、2戦2勝で茶帯びを勝ち取り、今年2月には1級受験だ。ちなみに、1級受験まで私は7ヶ月かかったが、彼女はたったの3ヶ月だった。早く上達したいというやる気は満々。ライバルの小学校5年生に勝つべく、日々、工夫を欠かさないでいる。私が目を付けたとおり、大きな割にフットワークがいい。いい位置にすすっと入って投げる投げる。テコンドーの経験がそうさせるのか、技のコンビネーションにセンスがある。覚えたばかりの技でも、すぐに実践し、いろいろ改良を考えながら使っているようだ。今後、技が研ぎ澄まされてきたら、恐いほどのファイターになるだろう。
そう、彼女は私に負けず、すぐに頭に血が登る。ライバルと組みはじめたら、数十秒で顔面が真っ赤に高揚し、すごい鼻息でくらいついていく。そして、やられる度にぶつぶつ悪態をついている(例えば子供相手に「ファック!」など、、、)。他の子ども達が、和気あいあいと投げたり投げられたりしているのに、彼女の周りだけ、空気がぴりぴりと赤唐辛子のようにホットになっている。うまくできないと、目に涙をいっぱい溜めて、くやしそうにしている。みんなに可愛がられるキャラクターだ。特に滝川先生は、練習熱心なドーンさんが可愛いらしい。あれこれ、目をかけておられる。例えば、1級受験の日程は、ドーンさんが両親との旅行から帰ってくるのを待って、設定して下さったのである。彼女自身も、その期待にこたえて、精進している。そんな、ドーンが私は好きだった。
高校の英語の授業では、大人っぽいロングスカートを履き、落ち着いた化粧をし、つんと“おすましスタイル”。凛とかっこよくおしとやかなあの姿は、ちょっぴり背伸びして演じていたのだ。柔道をしている時のおっちょこちょいで甘えん坊な子どもっぽい姿が、本当の彼女なのかもしれない。柔道に来る子ども達も、きっと学校とは違う顔を見せているのだろう。勉強や進路のストレス、友達関係の悩み、いろいろなものを抱えた今どきの子ども達は、外でも家でも、大人同様「重いよろい」を着て生活している。子ども達は道場では、「よろい」を脱ぎ捨て、素の自分でくつろいでいられる。大きな子も小さな子も、暇を見つけては、たわいもないふざけっこに興じる。昔の子ども達のように大きい子が小さな子の面倒を見て、お互いを思いやっている。ふざける態度は、いかにも子どもらしいが、道場に通っていない他の子ども達よりも、精神的に大人のような気がする。先日、トイレで道衣をよごした小学生がいた。かなり恥ずかしかっただろうに口をきっと結んで、友達の前で涙一つ見せなかった。そして、周りの子達も、見て見ぬふりをして、そのあとも決してからかうことはなかった。これが昼間の学校だったら、バカにされ、いじめの対象になった事件だろう。自己中心な世間の「大人達」より、大人びている気がする。
いよいよ、ドーン・ストルバーグの昇級試合の日がやってきた。2級受験のデビュー戦は見られなかったため、始めて彼女の試合を生で見られると思うと、ホストファミリー気分(ホストファーザー気分?)で、数日前からわくわくしていた。当日はウォーミングアップの練習相手になってやる!と、気合いが入ってしまった。前回、らくらく2勝していた彼女は試合前というのにとても落ち着いていた。ついてきたアメリカ人の友人と、楽しく雑談する余裕を見せる。しかし、心の中では、緊張していたのだろう。試合前、私とかるーく打ち込み練習するはずが、だんだんと力がこもってきて、いきなり渾身の力を込めて私を投げたのだ。打ち込みの最中に、本当に投げるときは声をかけるよう言っておいたのだが、あまり日本語を理解していなかったのかもしれない。いつもの子どもとの打ち込みの調子で、10回目に本当に投げてしまった。予期せず、激痛に襲われ、ぶざまに畳に転がる私。このとき、かろうじてつながっていた左膝の靭帯を、完全に断裂させた。あまりの迫力に周りの観客は早くもビビッていた。そして、はやくもドーンさんにファンが付いたらしい。年輩の指導者らしき人がいきなり近づいて、技についていろいろアドバイスを始めた。「足の振りはこうして、、、」などなど。けげんそうにドーンさんが聞く「あの人はだれ?」。私も知らんがな、と思いつつ、心の中では「おっ!注目されているぞ」と笑ってしまった。だが、彼女にとっては笑い事ではなかった。当日にあれこれ言われると、頭がごちゃごちゃになって、試合で萎縮してしまう。あわてて「フォームを直すのは、明日からでいいよ。今日は、いつも通りでいいからね」となぐさめた(後で聞くと、対戦相手の高校の先生だったそうだ)。
1級受験者はかなり多くて、20人以上もいた。そのため、一般男子、中学男子、中学女子の3つにグループが分けられた。運営者が困ったのはドーンさんの扱いである。中学生の部に入るには大きすぎるが、かといって一般男子の高校生たちはドーンさんよりも大きくて、実力も全然違うのである。結局彼女はかわいそうに、細眉のいかつい高校生達と試合するはめになってしまった。試合まで、30分以上待たされたが、彼女は一試合目、比較的軽そうな高校生。彼女が勝つとしたらこの相手しかない。相手は闘いなれて機敏に動き回るが、彼女も負けずに組み合っている。そのうち、いつもの調子が出てきて、力で振り回し始めた。崩れる相手。すかざず体落し。「わざあり!」審判の声に安心したのか、彼女は手を放してしまった。そのまま押え込めば勝てるのに!声をかける間はなかった。試合再開。今度は逆に体制が崩れ、袈裟固めで押え込まれる。相手ははるかにうまく、彼女は逃げられない。試合終了。惜しくも負け。彼女の連勝記録は2で止まってしまった。ぼう然とする彼女。負けたのがショックで言葉も少ない。しばらくして敗者復活の試合がやってきた。今度の相手は1試合目よりも一回り大きく、178cmの彼女を上から制していた。いつもの悪い癖、防御のためにかがんでしまったところを、すかさず大外刈りをかけられ、あっけなく負けた。私が声をかけるのもためらうほど、彼女は落ち込んでいた。またもや、例の年輩の人がかけよって言う。「頭を下げるからなげられるんや。もっと顔を上げないかん」と次々にきつい口調でアドバイス。彼女の落ち込みようは、どん底になった。
しかし、幸運の女神は彼女を見捨てなかった。大会運営の若い男性が来て、しきりに彼女のプレーを誉めたあと、もう一度敗者復活の試合があることを告げた。中学男子でまだ試合の必要な子達がいて、そのグループに入れることになったというのだ。「中学生と?なんで(いまさら)?」彼女は、昔の私のように、ランクを落されたみょーな敗北感に浸ろうとしていたので、慌ててフォローした。「一般男子はみな1勝以上したので、全員合格したから、ドーンの敗者復活の相手がいないためだ」。彼女は納得してくれた。本当は、彼女に勝って合格して欲しいという関係者の心尽くしだったのだが、彼女はそのことを今もって知らない。
3試合目。相手は同じ道場で練習している中学生。彼女も顔見知りのためか、最初から思い切って振り回しにかかった。しかし、いつも黒帯びと練習している中学生は、上手に立ち回る。強引に投げに行こうとして彼女はバランスを崩し、そこを袈裟固めで押え込まれる。やばい、3敗目か。そうおもったとたん、彼女は力づくで相手をひっくり返し、逆に上に乗って袈裟固めを始めた。「押え込み!」と審判。「いやあ、すごい力ですねぇ」運営の若い男性がほれぼれ見とれながら言う。いっしょに寝技の練習をした甲斐があったと、私は感無量で涙ぐみそうになった。「それまで!」彼女は勝った。引き続き2試合目。勝った事で気持ちがほぐれたのか、体が暖まったせいか、動きがいつも通りによくなった。そして、相手の技をうまく足払いで返して、一本を取った。2勝だ!「勝ったあ!」戻ってきた彼女はまた、いつもの茶目っ気たっぷりに戻った。運営の若い男性が彼女にたずねる。「高校生ですか?」。彼女は若く見られたうれしい!と大喜び。私が柔道を始めたときも、珍しい「おとな」ということで目立ったが、彼女は外国人、長身(178cm)、そしてパワフルなプレーという事で、私の数倍は目立ってしまったようだ。
これからもたくさんのファンを試合で魅了してくれることだろう。
そのあと、ドーンさんとその友達、子ども達5人で温泉に行き、しもたまきの家で魚鍋(ドーンさんはベジタリアンで、肉を食べないため)でお祝いした。自分が柔道するよりもはらはら疲れた一日だった。     

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