2011年5月23日月曜日

しもたま柔道&闘病日記ーその30-

しもたま柔道&闘病日記ーその30-
世間では、杖や車椅子を使うのは比較的簡単だと思っていて、杖や車椅子を嫌がるお年寄りを、ただの我儘と捕らえがちであるが、やってみると30代の菰池でも、意外に大変である。車椅子は、小柄な人に難しく、杖や松葉杖は体重の重い大柄な人に不向きである。
私は手術直後に車椅子に乗ってみたとき、まるで水泳のバタフライだなあと思った。椅子は広くて低く、大きな車輪がわきから離れた上部にあって、力が入りにくい位置にあった。車椅子は本来、使う人の障害や、体形に合わせてオーダーメイドされる。ところが、病院や施設の車椅子は、100kgの人まで使えるようにということで、座高の高い大きな男性のためのサイズなのだ。こぐにはとても力が要る大きな椅子に、小柄なおばあさんであっても乗せられる。馴れない人は、車椅子の足置きに足を乗せることから覚えないといけない。歳を取って、記憶力や体力が低下してから練習するのは結構大変だ。
また松葉杖の場合は、別の問題がある。もし身体が大きな人ならば、自分の重い体重を二本の腕で支えるのが大変だ。大きな柔道選手の中には、杖がつけずに術後2週間も車椅子を使うという。体が細くて腕力がない人も大変だ。これまた二本の腕で支えきれない。体重を松葉杖の先の小さな2点に乗せて、バランスを取るというのは案外難しい。年寄り臭い小道具の代表、1本杖は、腕力のないお年寄りが寄りかかるのは、とてもこわく技術が要ると思う。杖を使うとよけいに動きが不安定になる。杖さばきに神経が集中し、足運びにまで注意がいかない。こうして、腰が曲がっても杖はつきたくないというお年寄りが多いのだと思う。足が元気なうちに、全ての人が松葉杖や一本杖の練習をしておけば、いざというときにすぐ使える。山の会に入っている方々は、登山の杖やピッケルでなれていらっしゃるから、いくつになっても杖さばきが巧みで活動的になれること請け合いである。
さて、小柄な割に腕の筋肉がある私、菰池の場合である。松葉杖を使うのはとても有利であった。こんなわけで私は、手術の翌日からさっさと松葉杖を使い始めた(車椅子は大きな荷物を運ぶときと体が疲れたときだけに決めた)。松葉杖を使うと、特別にトレーニングしなくても腕に筋肉がつくし、元気な右足が弱らなくていいというメリットがある。以前、右膝の内視鏡検査をしたことのある私は、筋肉が落ちるとどんなに大変か、よくわかっていた。たった1週間の入院だったが、退院してすぐに家の中の小さな段差につまづき、不自由な思いをした。段差のない病院にいると、いつのまにか筋肉が落ちて、あがっている上がっているつもりの足が上がらなくなるのだ。1週間で落ちた筋肉を取り戻すのに、23週間近くかかった。スポーツ復帰に6ヶ月もかかった。そんな失敗をしないよう、今回は退院までに筋トレをし、段差を克服しておこうと心に決めていた。ベッドの上で、手術した左足にじっとしながら力を入れるトレーニングをかかさなかった。歩くイメージトレーニングも時々行った。それらが、術後一ヶ月で杖なしで歩けることにつながったと信じている。
2日目に麻酔医からもらった座薬を早速使ったがあまり効かなかった。さらに飲み薬の痛み止めを飲むと、しばらくして効いてきて、その夜はとりあえず楽に眠る事ができた。手術3日め、全身のむくみもとれてきた。麻酔医から痛み止めをもらっていたが、昼間の足のうずきは続いていた。なんかおかしいなと思って、いろいろ調べていてようやく原因を発見した。なんと、サポーターの支柱のせいだったのだ。手術から2日経つと、ぐるぐる巻きのぶ厚い包帯もうすくなった。そこへ、サポーターの金属の骨が、ガーゼむき出しのひざ裏にごりごりとあたっていたのだ(後で知ったが、ひざの裏のほうにつくったばかりの靭帯がある)。理由がわかってから、看護師さんらがかわるがわる来て、包帯をぶ厚く巻いてくれたり、いろいろしてくれたお陰で、痛みはほとんど感じなくなった。万歳!

筋肉を落とすのは簡単だが、つけるのは難しい。プロのプレーヤーは、スポーツ専門の医師や理学療法士、トレーナーがついて、最新のテクニックと機器を使い、短期間で復帰していく。理論と努力があれば、一般人の私であっても、同じくらい早く回復できるはずだと、下肢の術後のリハビリについて記された専門書を買い込み、来年の収穫作業、そして、柔道やサッカーに復帰するために、最善をつくそうとしていた。だが、本やインターネットに出てくるリハビリの例に出てくるのは、多くが10代~20代の若者であり、小さな子どもやしもたまのような中高年の例、女性の例など、マイナーな患者の場合の例は少ないのが実情であった。そして、これらマイナーな患者と言うのは、回復が遅く、目的意識が無く、リハビリが熱心ではないという医師やトレーナーの思い込みも手伝い、マイナーな患者に手術を勧めない医師が多いのが、手術例の少なさ、リハビリ例の少なさに通じていた。
整形外科で入院しているのは、角谷整形のような中堅の病院では、若者はスポーツや事故で、半月板損傷や骨折のための1~2週間短期入院が多く、少女より少年が多い。20代~40代では、仕事中の事故による怪我が多いため、ヘルパーで腰痛で入院していた若いお母さん以外は、ほとんどが男性患者である。そして、高齢者では、男性より女性が多く、股関節よりも膝を壊した女性が多かった。軟骨が磨り減る高齢者に女性が多いのは、なぜなのか。食生活によるのか、出産育児のせいなのか、立ったり座ったりしゃがんだり、和式トイレや正座の多い和風の生活によるのか、それとも女性ホルモンの減少による、骨粗しょう症によるのか。もし、洋風の生活によるのであれば、今の女子高生が高齢者になるころには、膝の人工関節の手術例が減るかもしれない。また、女性ホルモンや食生活によるのであれば、高校生の頃から家庭科や保健体育で生活指導することにより、改善する余地があるのかもしれない。
年代別で回復を比較する。30代になると、10~20代に比べ、筋肉がつくのに時間がかかる。骨折でも、骨の発育期の青少年は、大人の約半分の期間で回復することから、おそらく、筋肉痛の回復力や、骨と筋肉をつなぐ腱の太り方などが、大人より青少年の方が早いと推察される。また、中高年では、歯や胃腸が丈夫で、カルシウムや軟骨の材料となる食材をきちんと取れる人ほど、同年代でも回復が早いということももちろん大切である。だが、回復にはやはり術後、筋肉が減らないうちにいかに早く身体を動かし、骨や筋肉に適切な負荷をかけられるかという事であろう。
それにしても、女性の方が長生きしているためとはいえ、どうして整形外科の入院に、高齢者の女性が多かったのだろうか。たまたま入院した病院で、たまたま大部屋で目立ったのか。年配の男性に個室が多く、大部屋に年配の女性が多いのか。こういった統計資料は、どこかにあれば教えていただきたい。背中の曲がった人も、股関節や膝関節の悪い人も、欝や痴呆の人も、どうして年配男性ではなく年配女性に多いのだろう。自殺者に男性が多いのと関連があるのか。心神が不自由になり、働けなくなった男性は、働かないで生活することに本人や家族が耐えられず、自殺させられているのか?それがわかれば、生活改善にかなり役に立つと思う。ここに資料がないため、なぜ、年配女性に整形外科入院者が多いのか、原因を考えてみる。修論は、マウスが超音波を聞いたときの行動量と遺伝子の関係であり、雌雄や日齢出比較してた。こんなときに、学生時代の研究、ホ乳類の繁殖行動遺伝の実験の検証が参考になる。
男性と女性で比べると、女性の筋力の早期回復はかなり難しいと思われる。少ない筋力は、関節の軟骨や靭帯に大きな負担をかける。信州や和歌山にて、サッカーや柔道をしている独身女性の悩みの多くは、10代の頃の練習量を、いかに維持するかである。体育やクラブの練習量の減少、社会人になって、デスクワークや家事の増加等。女性のアスリートの場合、男性に比べて日常生活で消費するエネルギー量が少ない上、体の女性ホルモンが、筋肉の増加を妨げてしまう。国体出場レベルの女性に話を聞くと、彼女らの多くは結婚後、そして出産後、いかに早くレギュラー復帰するかで悩みを抱えていた。通常の妊婦体操では、現役復帰が間に合わないと、様々な情報交換を行っているのをよく聞いた。多くの女性が、昔は出産後に以前と同じ仕事やスポーツのレギュラーに復帰できなかった。出産後の女性達は、10代の若者や同年代の男性の何倍も努力して筋トレしないと、以前のような動ける体形に戻れないから、おそらく復帰が難しかったのだと思う(こういった復帰困難な理由について、今までまったく想像ができなかったが、今回、全身麻酔の入院と3週間のベッド生活により、こういう苦労なのかと身に沁みてわかるようになった)。
信州にいた1990年代当時、スポーツに復帰している出産後の女性というのは、子どもが小学生になり、ママさんサッカーやママさんバレーをしている人であった。つまり、子どもの手が離れてから復帰と言いながら、スポーツ完全復帰までに出産後、10年近くかかっていることになる。そして、彼女らの多くが、60代になっても、その後、トレーニングにより筋力をほとんど落とさずに走ったりしているところをみると、やはり、男性ホルモンの蓄積が筋肉の増強につながり、50代、60代になって、女性ホルモンが減少しているために、彼女らの筋力は、むしろ女性ホルモン値の高く、出産を経る20代よりも維持しやすいのではと思われる(性ホルモンは、男女共に男性ホルモン、女性ホルモンが分泌されており、その比率や分泌の時期に男女差がある)。
結婚後もスポーツを続けている人は、新興住宅街や都市部を中心に、今でこそ全国的に増えてきているが、漁業農林業の盛んな有田海草郡ではまだ少数派である。家事や農作業、パート労働をサボって、金のかかるリハビリに通うのを嫌がる家が多いのだろうか。そして、既婚女性の仕事やスポーツは(農林業では男性のスポーツも野球を含めて)、暇と金のあるときにだけやる「娯楽」扱いである。出会った医師の多くが、“女性”はリハビリをサボるから、手術は勧められないと考えている。女性のリハビリが続かない理由は“環境”にあると考えられる。仕事と家族とスポーツとリハビリ、4つ全てを全うしようと思ったら、地方都市の女性にはかなりの根性、根気がもとめられる。まず大きな負傷したときに、仕事を辞めるか、スポーツをあきらめるか選択を求められる。身体を壊した多くの女性は、まず金のかかるスポーツをやめ、無理して仕事を続けるのではないか。よって、仕事や子育てを終え、高齢になってからようやく手術を受けられるようになるのではないか。こうして、入院患者に高齢者の女性が多い理由を、菰池なりに、想像している。

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