2011年5月12日木曜日

しもたま柔道&闘病日記―その7―

しもたま柔道&闘病日記―その7―
読者の皆様、毎度ご愛読ありがとうございます。労山「紀峰山の会」の会報に連載を続けるうちに、山の会だけではなく、他の山岳会や滝川道場のみなさまから、激励のエールをたくさん頂きました。とりわけ、日記その5登場の、熱心な親に髪を刈り上げにしろといわれたという女の子からは、早く続きが読みたいわ(今度はもっといいこと書いてよねぇ)という強いプレッシャーを賜わりました。とはいっても良いことばかり書けば、つまらない文章になるんですがねぇ。
さてさて、昨年10月の田辺の試合より4ヶ月ぶり。29日の日曜日の試合は、念入りな特別トレーニングで迎えられた。題して、「余計なことは、やらなーいトレーニング!(日記その2で登場した、うちこみってなーに、めんどくさいからやーらなーいという低学年の女の子の口癖のパクリ)」。筋トレ。筋肉痛になるからやらなーい。金曜日の道場の練習も、疲れるからおやすみ。前日の家での稽古も、骨折してはいけないからやーらなーい。1週間前になってじたばたやっても遅いさあ、やることはやったさあと、ひらきなおり作戦に出た。しかし、イメージトレーニングと、柔軟体操だけは、日々抜かりなく行った。トレーニングには、うってつけの場所があった。それは、病院である。私はコンタクトレンズを使っているので、3ヶ月に一度、眼科に行く。それがたまたま試合前の水曜日だった。私は、これから試合に行くんだと暗示をかけ、眼科に向った。眼科に着いた私は、さらに想像力をはばたかせ、これから視力検査ではなく、検査室で昇段試合が行われるんだと、思う事にする。待合室で待つ間、試合を待つ気分で、技を思い浮かべたり、あるいはリラックスを心がける。とすると、しばらくして順番が来て、名前が呼ばれる。あっ!いよいよ試合だ。「はい!」私は大声で返事をして、気合いを入れて歩いていく。たかが視力検査なのに、手には汗。心拍数が上がるから不思議なものだ。
その同じく水曜日、道場の練習が終わって帰ろうとするとき、滝川先生が「おまえ、その白帯び巻いて行くんかあ」と尋ねられた。このところ、ずうっと白帯びを巻いて練習していたのを、先生はしっかり観察されていたのだ。私は、「10月の昇段試合のとき、普通の茶帯びを巻いていたら、試合直前になって審判に、中高生と違って一般は白帯びを巻くほうが良いと勧められました」と理由を話した(なまじ、茶帯を巻いているために、教員ではなく、学生と間違われて相手になめられていると教わった)。去年の2月に2級を取ったとき、私は白帯びを家で茶色一色に染めて、これまで愛用してきたのである。他人の帯びを借りるのもなんだったので、少林寺の胴衣の白帯びを調達してきて巻いていた。実際、一般の初段受けは、特別昇段以外は必ず1級を受験してからであり、普通は茶帯の期間が短いために黒帯までは白を巻くことが普通である)。
話は戻って、昇段試合のリーグは5にんずつ、5グループに分けられた。私のリーグは、5人中3人が高校生だった。昇級試合5回、昇段試合3回、いずれも小中学生が相手だったが、高校生と組むのは初めて。大人との試合への、第一歩だ。1日に4回も試合するのも、初めて、気力と体力が続くだろうか、自分を試せるいい機会だ。第一試合の紀南のN中学。どちらも技が決まらず、ずるずると試合が続く。いちかばちか、必殺「たまぐるま(残念ながら私の名とは関係ない、球車というれっきとしたかつぎ技である)」を試した。サッカーのスライディングタックルの要領で、相手の足の下に滑り込み、肩に担ぎ、相手を飛び込み前転のように投げて回転させる、めずらしい技だ。相手がゆっくりころがったためポイントにならず、そのあとの押え込みもうまくいかず、結局引き分けた。結果は残念だったが、枠外だったものの、体落しが決まって、よし、この調子でやれば、次は勝てるかもしれないと、自信をつけた。第2試合、T高校。力が強い。外見よりも、ずうっと相手の体重が重く感じる。技の前に、組み負けそうだ。足はらいしても、よろける程度、倒れてくれない。こりゃ、捨て身技だあと思って、大内刈りに来たのを体重を乗せて返そうとしたら、怪力で押しつぶされて、顔面に体重を浴びせられ、上四方固め(頭と足が相手とぎゃくになるやつ)。これはなんとか逃げる。再度、大内刈りできたのを、これまた今度こそと思い、しょうこりもなく返そうとして、さらに失敗。涙の一本負け。確かに強い相手ではあったが、下手な返し技を狙わなければ、もしかしたら引き分けられたのではと思うと、くやしい。2度の顔面パンチを食らって、両鼻の穴と口からたらりと出血。またもや、ボクシングの試合のようになってしまった。顔面血まみれのまま、あわてて洗面所に駆け込んで、気分を仕切り直しての第3試合、W高。左組か?左の背負いが来るが、余裕で防ぐ。一瞬ぽかんと口を開けて驚く相手。続いて私、うまく体落しが決まったものの、枠から出ていて無効。やがて相手が体落しを警戒して腰をひいてきたので、帯びをつかんでひき込み返し(ともえなげのようなやつ)をしたら、投げそこない、寝技へ。相手はしめたと大喜び。寝技が得意だったようだ。W高のギャラリーも大興奮。でもねぇ、お生憎様。私も寝技は苦手じゃあないんだよ。逆に相手に乗り返して十字固めを狙いに行くが、相手も然る者、うまくかわしてゆく。そうこうしているうちに3分が経過。引き分け。勝てそうな試合だっただけに、残念であった。ここまでで12分。次こそは何がなんでも勝ってやる。負けるものか!負けるものか!第4試合、S高校。隣の試合が、寝技に入ったため、試合開始が遅れる。ファイティングポーズで向かい合っていると、相手はすごく緊張して、力んでいる。強引にえりをつかみに来て、中途半端にふりまわすだけ。足もじたばた。これは勝てる。背が高そうなので、背負いを試みるが決まってくれない。この相手なら、肩車や裏投げ(バックドロップ)を一かばちかするほどでもない。そう、冷静に判断し、諦めずいろいろ技をかけてみる。この相手に勝たないでどうする。どうしても勝つんだ、勝ってやる。もうあとがない。時々、念じながら、自分を追い込んでいった。最後、小内刈りからふりまわすような体落しをかけたら、くずれてくれて、袈裟固め。それが、中途半端で、きっちりおさえられない。今にも逃げられそうだ。この勝ち、逃してなるものか。最後の試合だ、力を使い果たしてもいいんだ。暴れる相手を、力づくでじりじりとひきよせる。すでに手の握る力は弱く、足と手を使って、相手の腕を何とか固定。長い25秒をこらえる。やったあ!1勝だ!
今回のポイントは1勝2分けで2点。10月の2.5点(21分け)と合わせると、全部で4.5点。目標の10点まで、残るは5.5点となった(1級を取った8月から、まる1年を過ぎれば6点、1年半を過ぎれば3点で黒帯びOK。 3点を超えた事で、遅くても、来年の2月には黒帯びが巻けることが確定した)。帰宅してから、滝川先生に、試合結果の報告の電話をした。「相手の力は強かったか?」「ひとりは力負けしそうでしたが、あとは、私の方が力があったと思います」「試合してて、相手が強くてこわなかったか、びびらんかったか」「???」一瞬、先生のお言葉が理解できなかった。先生は、私が相手にのまれて萎縮してしまったかどうかを、尋ねていらっしゃるようだ。そんなこと、考えもしなかった。自分がうっかりミスをしないか、普段通りリラックスして動けるか、そんな自分に対する緊張はバリバリあったけれど、相手が強すぎて戦うのが恐いという気持ちはまったく起きなかった。鼻血が出れば、余計に発憤したし、押さえそこなうたびに、今度こそ、と興奮していた。どんなに試合前に心臓がどきどきし、手足が震えていようとも、いざ試合が始まったら、頭に血が上って、ひたすら突進していった。相手が何キロあろうが、何センチあろうが、何段だろうが、試合になったらきっと無鉄砲に無我夢中で突進していくのだろう。4試合も気力体力が持つだろうかと心配することはなかった。これからの練習は、2試合目のT高と戦えるような、力とテクニックをつけることが、目標になるだろう。中学生と高校生では、全然違う。普段からしっかり筋トレしていて、攻守、立ち技寝技、バランスのとれている高校生対策が、あらたに必要だ。捨て身で相手を助けてあげてしまったような、嫌な負け方だったが、負けたことは負けで終わらせず、対策をねっていこうと誓うのであった。
寝る前にかがみを観たら、口がはれあがっていた。そのうち青あざになるのだろうか。熱いキッスマークではない事を、お断りしておこう。

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