2011年5月11日水曜日

しもたま柔道&闘病日記―その5―

しもたま柔道&闘病日記―その5―
この夏、暑中見舞いの挿し絵に、柔道の「かっこいい絵」を使おうといろいろ下描きしてみたが、色は少ないし、描いてみると意外と絵になりにくいテーマだったことが判明した。柔道着というのは、ただの真っ白けで、他のスポーツのユニフォームに比べて味も素っ気もない。したがって、どんなにきれいなカラーフィルムで写そうとも、ただの白黒写真となる(どこで撮影してもカラフルな山の風景写真とは、対照的だ)。髪型も、柔道をしていると制約が多い。男の子も女の子も、間違ってもチャパツ(茶髪)のロンゲ(長髪)のパーマなどになれない。まず、長髪のまま髪の毛をくくらないで取っ組み合うと、相手がえりをつかむときに、髪の毛も一緒につかまれて、ごっそりとむしり取られてしまう。熱心な親に、もっと髪を切れ、刈り上げにしろといわれて、それでは恥ずかしくて学校に行けないと反発している女の子もいる。しかし、小学生ならともかく女子中高生になって、普段のセーラー服から、ヤワラちゃんのように前髪をちょんまげにするのは、勇気が要る。道場の女子中学生たちも、今どきの女の子らしい可愛い髪型にあこがれるが、夢のまた夢である。こうして道場には、まるで戦争中の子供たちのような、いがぐり頭の坊やや、真っ黒なおかっぱ、お下げの少女だらけになるのだ(武士や戦争中の子供たちの髪型服装は、武術という点で見ればなかなか機能的だったんだなあと、逆に、自由な髪型というのは、平和なご時勢ならではなんだなあと、妙に感心してしまった)。
8月の末頃の私は、柔道が絶不調、スランプの状態だった。まず、入ったばかりの柔道日記その4で登場した、技を教えたばかりの白帯び女子中学生に、いと簡単に投げ飛ばされてしまった。ええっなんでやねん???夏ばて(高温多湿のグリーンハウスの収穫、さらに早朝6時ごろから陰のない炎天下の摘果作業で激やせ。)のため、体力が落ちていたせいもあるが、とっても情けなかった。すっかり自信を無くしてしまった私は、さらに、1級茶帯の中学生4人と昇段試合を模した「総当たり戦」をした時、普段は勝っていた中学生にまで、ころっころっと投げられて、連戦連敗を味わった。総当たりの対戦表を見たある子どもが、「あれ、調子いいじゃん。連勝してるね!」と、にこにこ話しかけてきた。私に全部丸が付いていると思い込んだのだ(縦と横の欄を見間違えて、、、)。普段なら冗談でかわせられるのに、ぐさりとささって、ぼろぼろの気分だった。そしてこの時、今の自分ではとても昇級試合で勝てないことを、しっかり悟ったのだった。まず、気持ちが相手に負けている。自分に暗示をかけ、精神的に強くなって、10月に備えよう。弱い自分との戦いが始まった。今から思い返すと、左右関係なく技をかけられていたのが、この頃から滝川先生に、左組みなら左をもっと練習せよと言われ、左ばかり練習しているうちに、相手に技を読まれやすくなったためと思われる。
また、昇段試合を重ねるごとに、相手校の顧問に苦手を研究されてきた。対戦相手にすれば、大人である私とやるのは貴重な体験チャンスであるが、大人である私にやられるのは、少しでも早く黒帯を得る、貴重なチャンスを失う、「大人からの嫌がらせ」であるのだ。柔道始めて数ヶ月の大人にやられるのは、高校生でも落ち込むらしい。
いづれにせよ、かっても負けても、大人は損ということだ。まして、中高生の女の子に勝っても、「おとなのくせにえげつないと」その子の両親や祖父母にひんしゅくを買うばかりなのである。大人同士で戦うなら、かっても負けても損はしないのだが、、、大人からスポーツを始めるのは、本当に羞恥心との戦いである。
その日から私は勝つためにやれることをやろうと思った。一番難しかったのは、自己暗示だった。練習で勝てば、自然にスランプは脱出できるはずだが、それが難しい。他の1級の中学生達は、一度私が連敗するのを見て、すっかり自信を付けてしまった。やつらは、調子に乗ってくると、本当に恐いもの知らずだ(逆に、中高生は一度へこむと、とことん落ち込んでたりもする)。この印象を振り払うほど、切れる技をどうやって身につけようか。それには地道に、それぞれの技に磨きをかけるしかない。技のフォームやスピードが黒帯び並みになるよう、工夫しよう。鏡を見て、フォームの修正をしたり、緩急を意識した打ち込みをしてみた。それから、中学生をもう一度びびらすような、意表を突く技も必要だ。肩車という背負いよりも高く担ぐ大技や、プロレスのバックドロップ風の裏投げという豪快な技も試してみた。こうして9月の一ヶ月で、整骨院にせっせと通って捻挫を直し、体重を3kg、元に戻した(1月に痛めた肘の痛みがとまらなかったのは、剥離骨折であったが、まだこのときは理由がわかっていなかった)。
あとは、試合直前の体調準備だ。8月の試合では、相手を研究しようと、たくさんの試合を見ているうちに、「あいつらはうまい」「彼らに勝てるような気がしない」とびびってしまった。どうすれば、自分に自信が持てるんだろう。ある日、柔道初段の義兄が、昔言った言葉が、耳に聞こえてきた。「きれいな柔道をやろうとするんじゃない。今は力づくで下手で良いんだ」。私はもしかして、すごい勘違いをしていたのではなかろうか。2月に小学生並みで恥ずかしい試合だったので、かっこいい動きをしようと力み過ぎていたのではないだろうか。始めて間がない私が、何年もやった人と、きれいさで勝負しても勝てるわけがないのだ。試合でも無骨でへたくそでいて良いのだ。そうふっきれたとき、私は試合で勝てそうな気になってきた。私は普段、道場で2段とか3段とか4段と練習しているのだ。勝てないわけがない。もっと自信を持て。そう暗示をかけて、昇段試合に臨んだ。
10/6の試合当日(32歳になっていた)、1時間も早く着いて、ゆっくりたっぷり昼食(ケーララ風インドカレー)を摂り、試合会場の畳の上で昼寝。もはや会場は、親しみのある所と化した。そして、心行くまで打ち込みをして体を暖め、とどめに、必殺技の紙(自分の悪口をこれでもかと書いた紙)とにらめっこして怒りをためた。
さて、試合結果の方であるが、2月のごとく「いのしし」と化した私は、1人目を力任せにふりまわしてそうめんのようにのばし、2人目は1分もしないうちに「バックドロップ」をかけ、どちらも押え込み一本で2勝。最後の試合は押え込んだもの絞め技がきっちり決まらず、引き分けとなった。21分けの初成果!先月の地獄が、一気に天国となったのだ。
つづきはまた次号にて。

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