2011年5月23日月曜日

しもたま柔道&闘病日記-その23-

しもたま柔道&闘病日記-その23-
今回は、カナダ人のドーンさんの話である。甘えん坊で、寂しがやのドーンさん(日本に来て最初の数ヶ月は、大好きなパパに毎日電話していた!)。23歳にして初めての一人暮らしが、遠い世界の果て?の異国の地。私なら、数ヶ月でもう、音を上げそうだ。ドーンさんは最近、ずいぶん日本に慣れてきたが、郷愁は募るばかりだった。日本で働き始めてようやく一年が経ち、この夏休みがやって来た。「もう、わたし、まちきれな~い!(大人は普通、あと何日で帰国って数えるが、彼女は子どものように)ママぁ~、あといくつ寝たらおうちなのぉ~?の気分よ!」と、すごいはしゃぎようだ。
彼女は、日本に来たときよりも日本語の内容と発音が幼稚になっていた。あまりにも、毎日外国人として片言で話しかけられているうちに、日本人の話す片言のへたくそな日本語が身についたらしい。カナダで日本語の先生をするといって、流暢な日本語を身につけてきた彼女には、かなりマイナスなオーバーな女の子日本語の言い回しのくせがついた。外国人らしい日本語と言うのは、日本人が植え付けるのだ。おなじく、ニューハーフがいかにもニューハーフらしい大げさな女の子日本語をしゃべるのも、この人はおかまに違いないと思ってにやにやしゃべりかけるためである。ニューハーフの場合、その人が、20代でも30代でも、中高生が話すようなしゃべり方、服装、立ち居ぶる舞を欲求されている。これも、一般の日本人が、その大げさなしゃべり方や服装、立ち居ぶるまいを植えつけているいい例である。外国人女性も、ニューハーフも、普通の成人女性のような落ち着いた立ち居ぶる舞をゆるされず子ども扱いされているのである。男性の場合は、白人男性ならば一目を置かれるが、アジア系アフリカ系男性ならば、やはり、子ども扱いされる。話しは飛ぶが、日本の女子高生(ときに女子大生)も、成人女性のような落ち着いた立ち居ぶる舞をすると、おっちゃん、おばちゃんたちから、女子高生らしくないと子ども扱いを受けている。あの、コスプレじみたセーラー服と紺のスクール水着の所為に違いないと、踏んでいる。同じ高校生でも、私服の高校では、そんな圧力はない。
悪いくせをとるべく、大阪での2週間の日本語研修ののち、まるまる1ヶ月のカナダ帰省。結局一月半も、彼女は道場から遠ざかっていた。「カナダの道場で柔道するから、だいじょうぶ!」と大見得を切って。
しかし、彼女は、カナダで友達と遊びまくっていて、一度も柔道をしなかった。「友達は、昼間働いているから、夜しか遊べなかったの。えへへへ」。公約違反(マニュフェスト)じゃ! 8月下旬に丸々と太って帰って来た彼女は、すっかり筋力も落ち、動きも鈍くなっていた。しかし、昇段試合は、すぐに迫っていた。とっても焦った彼女は、道場だけでなく近所の中学校まで練習に行き、毎日の様に柔道を始めた。全くの運動不足からいきなり、である。どう考えても、試合当日は筋肉痛で動けないではないか。案の定、試合の3日前には、あちこち痛いといいはじめた。「なにをいまさら!」私はあきれてしまったが、うんうんと話を聞いていた。「腕が張ってきていた~い!」「それは、道衣を握る力が帰省前より落ちているからだ」と私。「でも、(握る)指は前のように痛くない、痛いのは腕のほうよ」。さらに、「わきや背中も痛いの。何故かしら」とぼやいている。私が柔道を始めたばかりの頃は、すぐに腕や脇腹が痛くなったものだ。しかし、ドーンさんは、疲れ知らずだった。当時のドーンさんは、毎日十数キロ自転車に乗って、下半身に筋肉が人一倍あったし、技が上達するにつれ、技に必要な上半身の筋力もついていた。だから今回のように、背中や脇が痛いという経験は生まれて初めてなのだ。腕が張るというのも、柔道や岩登りをしている人ならよく経験するが、習い始めて1年も経ってから知る人もめずらしい。体格の割に握力が少ないのに、無理に力で投げようとしてた彼女は、かつて指の腱鞘炎にかかっていた。今まで、握りすぎると腕が張る前に指の腱が痛くなっていた。
9月中旬の昇段試合(34歳になったばかり)は、和歌浦だった。私は会場の場所をよく知らないので、同じ道場の子のお父さんに乗せてもらって、4人ででかけた。真面目なお父さんが、30分以上はやく出発して、高速を飛ばしたため、試合の1時間以上前についてしまった。しかし、そこでは、「極の形(きめのかた)」という、古式ゆかしい柔道の形がおこなわれていた。刀を2本つかい、20種類ぐらいある難しい形だ。ドーンと私は、夢中になって魅入っていた。「あれは、テコンドーではこうするわ。あの動きはおかしい」「これは実戦では、不自然」ドーンの批評は厳しい。「実際の戦場では礼もしないで、相手が後ろを向いているときを狙って蹴るでしょう」私も笑いながら反論する。心の中で、「形は、柔道の文法なんだよ。英語だって、日常で使わないようなディス・イズ・ア・ペンで、語順やら文法の基礎を最初に習うだろうに」とつぶやいていた。ただ、チャンバラ好きの私からみても、刀の歯の向きが人によっては歯が上だったり下だったりで「それでは相手が切れないじゃないか!」と気にはなったが。
さて、ドーンさんは、過去の3回ですでに5.5ポイント獲得している。4回目の今回は4人グループ。今まで、いつも投げられていた特別大柄な相手は、もう黒帯びを取って“卒業”していた。だが、大きい人のグループに入れられていて、残りの3人は全て70kg以上、身長160cm前後の女の子ばかりだ。初戦は、過去に3回もドーンさんとあたっている女の子だった。一度目は勝てたが、次から引き分けている。相手をひきずって、左の“体落し”で決めた。幸先が良いスタートだ。
第2戦。強そうな高校生。すごい気迫で、ドーンさんが攻めまくるが、技が効かない。そのうち、技をかけたあとによろけてしまい、両足がそろったところを、そのまま押し倒された。内容では、ドーンさんが攻め勝っていたから残念だ。最後の相手は、背が低めで動きもゆっくりだった。ドーンさんは余裕を持って、左に振りうまく右に崩して左の“体落し”で決めた。結果は2勝1敗。久しぶりに見たドーンさんは、試合がとてもうまくなっていた。さすがは、テコンドー2段だけはある。こうして2ポイントを獲得し、7.5ポイントとなった。しかも、試合っぷりを見込まれて、2段受けの人と、掛け試合(黒帯び1人と茶帯び3人とが連続で闘い、茶帯びが勝てば2点もらえる)の相手をさせてもらっていた。この黒帯びにはあっけなく負けたが、2段受けの人のレベルのすごさを実感した。
5回目の昇段試合は、10月始めに田辺武道館でおこなわれた。湯浅に住むアイルランド人と、由良に住むオーストラリア人の女の子達も、応援に来たので、ドーンさんはおおはりきり。残り、2.5ポイントであがり、黒帯びになれるかもしれないからだ。一人目と二人目は、くずしておさえこみで1本を取った。全身で抱えずに、手の握力だけで押え込んでいるので、2人も押え込むと腕が筋肉痛。しかし、前回よりも体が動くから、まだまだ余裕があるようだ。三人目は、先月あたった、背は低いが重量級の女の子だ。今度は投げられないようにうまくにげていて、やはり、技を仕掛けてこない。ドーンさんもつられて、相手の出方を待ち、両者が固まってしまう。「ドーン、待つな!動かして崩せ!」と、せっつく。 時間が迫った頃、釣り引いてあいてをくずして、右の体落しを決めた。四人目は、このリーグに入れられたのは何かの間違いだったかのような、普通のちいさな女子中学生だった。倍ほどもあるドーンさんに、あっけなく内股で投げられて、しかも、投げたあとにそのまま勢いよくドーンと上に乗られて、ぐしゃり。うめいている姿はとてもかわいそうだった。
4戦4勝で4ポイント獲得したドーンさんは晴れて黒帯びとなった。柔道を始めてたったの1年。なんのズルも特別配慮もなく、正真正銘の10勝で手に入れた黒帯びだ。ドーンさんの友達(アイルランド人とオーストラリア人)と温泉でくつろいだ後、湯浅のアイルランド人の家に集まり、スペイン料理やイタリア料理の手料理で、みんなで黒帯びをお祝いした.

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