2011年5月16日月曜日

しもたま柔道&闘病日記-その15-

しもたま柔道&闘病日記-その15-
外国で柔道してみたいなあ。柔道を始める前に漠然と持っていた夢。言葉の通じない外国で、昔からの友達だったかのように、ひととき、スポーツという共通の言葉で会話する。なんかいい感じではないか。旅行中にインドやドイツで、地元の青少年とサッカーをした時の楽しい思い出が蘇る。しかし、私は日本にいるくせに、日本の伝統文化の方は外国人に紹介するほどの経験や知識がなく、旅行中に歯がゆい思いが付きまとうのであった。いつの日か外国人と取っ組み合うぞ~!と思って、去年の暑中見舞には、願いを込めて絵を描いた。柔道着を着たでっかい金髪の外国人を、私がカッコ良く一本背負いで投げるのである。ああ、やってみたいなあ!そのたった3ヶ月後に、私のあこがれの夢は正夢となった。
その日は、極ありふれた木曜日で、いつものように仕事をこなしたあと、高校の柔道部へ顔をだそうと、鞄にはジャージと柔道着が入っていてた。隣の机の剣道部顧問が、なにげなく、「剣道やってみやんか?初心者の先生もいるで。ALT(英語)の先生や」と話しかけてこられ、「では、一日体験入部ということなら、、、」と興味津々でジャージを着て行った。大阪にいる弟の剛史(たけし)が居合をやっているビデオを見た事があるくらいで、剣道の試合すら見たことがなかった。その時は、他の武術を見学するのは、柔道にプラスになるかなあくらいの軽い気持ちであった。
超初心者の私は、まずは素振りから。なにげない振り下ろしなのだが、前にある右足を普通に踏み込んだら、「だめ~!」といわれる。後ろにある左足でジャンプして、右足から着地するという。さらに、しないをまっすぐ振り下ろすと、またもや、「だめ~!!」の声。竹刀の先は前に突くように伸びていかねばならぬ!という。そんな司令にじたばたしていると、横でさっそうと素振りをしていたのが、カナダ人のドーン(DAWN)さんだった。彼女は、小さい頃からテコンドーをしており、2段まで取ったというスポーツ好き。日本にいる間に、何か武術をと思い、剣道か合気道を思い付いたのだという。テコンドーをしていただけあって、足さばきが軽く、体も柔らかくてばねがある。しかも、暑中見舞の絵と外見がそっくり(茶髪に青い目)だったので、ピピッと頭にひらめいた。彼女と柔道がしてみたい。絵の様に背負い投げをしてみたい。私はいきなり彼女に日本語でこう断言した。「あなたには柔道がむいている!!」。
「ジュウドウ?それは、足も使うの」柔道をまったく見た事のないドーンさん。口で説明しても分からない。まあ取り合えずは、興味を持ったようだった。私は家に帰って義兄と「ドーンを柔道選手にするぞ作戦」を練った。そして、ある日、さりげなく、滝川道場の練習に誘った。待ち合わせの場所と時間に、彼女は来なかった。しょうがないな、あのひらめきははずれかな。そう思って帰ろうとしていると、30分くらいたってから、ひょっこり現われた。集合時間を勘違いしたそうだ。私に似て、おっちょこちょいの性格らしい。すっかり親近感がわいてしまった。
本当に彼女と私は趣味や性格が良く似て気が合う。もちろん、経歴から外見まで、なにもかも全く違う。彼女は、カナダのブリティッシュコロンビア大学卒で、日本で言えば京都大学を卒業したような、エリート。しかも、普通のALTとは違い、教育学部を出て日本語を選考している日本びいきである。長い金髪をなびかせているところは、可憐なお金持ちのお嬢さんといった感じ。私の10歳年下で23歳と若く、ドイツ系のお父さん似で身長178cmの長身。運動神経もパワーもすでに黒帯びのような貫禄だ。まったく似ても似つかないように見える。ところが、性格は何でこんなに似ているのだろうと思うほど、そっくりなのである。子どもっぽいいたずらが大好き、おっちょこちょい。何かに夢中になったら他の事が目に入らなくなって、子ども相手でも頭に血が上ってしまう。彼女も筋金入りの負けず嫌いなのだ。つまり、彼女もまた、私とおんなじ理由で、柔道にはまってしまった。取っ組み合いはおもしろい!勝ったらもっとおもしろい!
最後の2回くらいの練習で、ようやく自由練習(freedom)と称して彼女と立ち技で対戦した。とにかく重い。崩してもバランスが良い。数段重ねのミカンコンテナを押しているようだ。しかし、早く始めた年の功とやらでなんとか投げる。念願の一本背負いにもチャレンジ。これが、なかなか背中に乗ってくれない。むりやり引きずるようにかがんでドーーン。名前のような響きとともに投げた!投げた!正夢の瞬間だ。みかんが終わって、練習に復帰する頃、彼女はかなり強くなっていることだろう。もう、こんな風に投げさせてもらえないかもしれない。すぐに追い越されそうな予感がした。それでも、彼女を誘って良かった。同じ大人で、といっても彼女は高校生より5歳上なだけなのだが、一緒に柔道をする仲間を、しかも金髪美女の!仲間を得たことは、私にとって計り知れない影響をあたえそうだった。彼女も上手くなるだろうが、私もきっとうまくなれる。私もがんばるゾ!事実、彼女の容姿と柔道への熱心な取り組みが、和歌山の柔道界の素晴らしき宣伝となった。そして、私は彼女の親のような兄弟のような家族となった。
可愛い後輩で、練習のよきライバルとなった、「ドーン・ストルバーグ」は、今後も柔道日記の常連になりそうなので、皆様、今後ともよろしくしてやってください。
最初の頃、滝川先生に、「今度、カナダ人を道場に連れて行きます」と言ったとき、先生はあまり気乗りのしないお返事だった。「高校の柔道部でする方がええんやないか」「外国人は、日本の文化を吸収して、すぐ向こうに持って帰ってしまうんやな」「怪我が恐い」「危ない」。先生のご協力がないと、いくら私がせっせと連れてきても、彼女は柔道に興味を失ってしまう。そう思い、「ドーン早期育成計画」を実行することにした。時は10月下旬。みかんの収穫時期が迫っていて、私が練習に来れるのはあと数回だった。少しでも早くみんなと普通の練習が出来るようにと、私がマンツーマンで、毎回少しずついろいろな技をコーチし、受け身をしっかり覚えさせた。もともと格闘技大好き少女だった彼女は、新しい技を覚えて倒すのが楽しいらしく、とても積極的で覚えも早かった。あっというまに紫帯びの子供たちと闘えるようになった。滝川先生も、彼女の真面目な態度と才能を知ってからは、先生自ら組んで度々指導なさるようになり、早く茶帯びを取らせよう、そして、日本にいる間に黒帯びになれるよう、力を注いで下さるようになった。

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